思いやりレストラン

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 村には、食堂がありました。
 親子丼や煮魚定食、うどんなど何でも作り、たまに、夜中にお腹がすいた村人が出たときには、余ったご飯を使い、雑炊を作ってくれたそうです。


 月日が経ちました。村は町になりました。
 食堂はレストランになりました。親子丼や煮魚、うどんだけでは、お客が満足しません。マグロにステーキ、コロッケ、ハンバーグにパスタと好みは様々。てんてこ舞いです。しかも、店内は騒然としています。お腹のすいたお客は、お腹がすいているから先にだせ。早く来た客は、早く来たんだから先にだせ。後に予定が入っている客は、予定が詰まっているから先に出せ。簡単な食べ物をオーダーした客は、簡単な食べ物だから先にだせ。なんとか、みんなに一番都合のいい出し方を考えて、まとめて調理すると、お前は神様にでもなったつもりか、と非難轟々です。
 夜も大変です。昔、村の夜は早く、夜中にやってくるひとは少なかったものです。あまりモノの賄い飯で喜んでくれました。ところが、今は、昼間と同じものを出さないと、怒り出します。そのためには、夜中でもフライヤーを暖め、スープを準備しておかないといけません。そこまでして食事を出しても、マグロは寿司屋のマグロより不味い。ステーキはステーキ屋松阪牛に負ける。パスタは専門店に限る、と文句ばかりです。
 仕方が無いので、シェフはオーナーに相談しました。もっと料理人を増やせばいいのかな。すると、あなたには思いやりが足りません。客を満足させて、それからでないと交渉できません。シェフは、疲れて辞めてしまいました。
 さて、そのレストランでは、シェフを養成しています。朝も昼も夜も働けるように、思いやりの特訓です。包丁より、生地の捏ね方より、スープ採りより思いやり。素晴らしいレストランができるでしょう。
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