切るということ;ときどき思うことシリーズ

 自然界のものは、大概、センイから構成されている。動物の体はコラーゲンセンイ、植物であればセルロース。動物の皮、センイを編んだり織ったりして作った布、そういうものは、薄くて柔軟である。紙袋と、布の袋の違いを考えてみるといい。受け止めた圧力を、一箇所に集中させず、伸びることで周囲のセンイに力を分担させている。繊維の一本一本も細く、そのため、曲げ応力にも強い。
 一方、刃物は、硬い金属や石その他を用いている。楔状の断面を持ち、先端に力を集中させている。そこを刃と呼び、のこぎり状になっている。ものを切るときには、そののこぎり状になっている刃先がセンイを一本一本切っていく。
 これが、狭い意味での"切る"という現象だ。刃先に脂がつくと、この狭い意味で"切る"ことはできなくなる。しかし、十分鋭ければ、力を入れることで"刺し"て"割る"ことはできる。野菜なんかであれば、この意味で切れれば十分だったり。また、押しても切れないが、引くと切れる、という現象があるが、それは、押しただけでは狭い意味で"切る"メカニズムが働かないからだ。
 そんなわけで、狭い意味で"刃のついた"刃物でも、ちょっと肉を切れば、脂がつく。脂がつけば、狭い意味で"切る"ことは難しくなる。そうしたら、なんかで脂をおとしてもいいし、刺してもいいし、脂の妨害に負けないだけの力を加えてもいいかもしれない。切ることに関して議論に混乱を見るときがあるが、用語の混乱が拍車をかけているとは思う。