日本式経営と米国式経営

 混沌とした秩序が、現場の活力を生む「フロー経営」と私が呼んでいる状態にあったということ。それが過去のソニーにおける躍進の全てだった。創業以来、混沌とした秩序の中でソニーのフロー経営が続いていた。

 「フロー」という言葉は米国の心理学者、ミハイ・チクセントミハイ氏が提唱した概念なんだ。「フロー」の状態に人間が入ると、その時に手掛けている作業に完全に没頭して作業がはかどる精神状況になる。会社の現場が、仕事がおもしろくて夢中になっている社員があふれているのが「フロー経営」。まさに創業期のソニーの開発現場はこんな状況だったんだ。

 我々エンジニアはソニーの開発現場がフロー経営の状態にあることが当たり前だった。この状態を江崎さんなりの解釈で、「混沌とした秩序」と表現したんだと思う。

 エンジニアが夢中になって新しいことに挑戦する。そういうエンジニアを大切にして、創業期のソニーは伸びてきた。今だから言えるけど、ソニーの経営はものすごく先進的だった。米国の合理主義経営の先を行っていた。

 だけど1995年に出井さんが社長になって、「欧米に比べて遅れている」と勘違いして、米国型の合理的経営と言われるものを無理やり導入した。それでソニー創業期の躍進の原動力となっていたフロー経営を見事に破壊してしまったんだな。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/16/031800001/061000011/

たぶん、欧米なら、経営者が「夢中になって新しいことに挑戦する」か、「夢中になって新しいことに挑戦して成功したベンチャー企業」を買収するか、な気が




そしてソニーは既定路線通り、AIBOQRIOといったロボット開発をすべてやめたんだ。同時にAIやロボットに詳しいエンジニアも、四散してしまったよ。

 その頃にAIBOの研究開発に従事していたエンジニアは、かなりの人数がソニーをやめてしまった。けれど今でも、米グーグルのロボットプロジェクトに入ったり、日産自動車の自動運転プロジェクトの中心人物になっていたり、ソニー時代の知見を生かして活躍している。

 今、国内外でAIやロボット分野の第一人者となっているエンジニアの多くは、当時のソニーにいたんだよ。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/16/031800001/061000011/?P=4

土井:そこで出井さんの肝入りで立ち上げたのが、「QUALIA(クオリア)」と呼ぶ、高級品ブランドを作るプロジェクトだったんだ。少量生産の高価格帯の製品ブランドを新しく作ろうとしたんだね。

 けどね、モノ作りのことを分かっている人ならすぐに気が付くんだけれど、家電分野で少量生産の高価格帯製品を作るのはものすごく難しい。今なら、3Dプリンターなどを活用して、低コストで小ロット生産できる技術ができてきて、まだやりようはある。

 だけど、その頃は無理だった。エンジニアからすると、少量生産だとまず金型の採算がとれないからね。高級感を持たせる金型はとんでもなく高価になるし、それを少量生産の製品で償却しようとすれば悲惨なことになるのは目に見えている。

B&Oとか、欧米の高級オーディオを目指したんじゃね? B&Oは身売り交渉してるようだけど。