「一条で十分」

 あるところに、倶楽部があった。
 そこの壁には、いろいろな規則が並んでいた。
 「騒ぐな」「携帯はロビーで」「禁煙」「音楽プレイヤーのボリュームは控えめに」「大声は出しすぎないように」「スカートのプリーツは乱さないように」「白いセーラーカラーは翻らせないように」「ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ」
 そこへ、一人の男がやってきた。彼は、皆に言った。
 「こんなに、いろいろな規則があるなんて、まるで全体国家じゃないか。我々には、一つの条文で充分だ」
 「紳士的であれ」
 みなは、その素晴らしさに感動した。壁に貼られた注意書きを剥がし、その言葉を貼り付けた。


 と、男はおもむろにポケットから煙草を出すと、それを吸い始めた。煙で周りが咳き込む。
 「おい、あんた、酷いじゃないか。それでも紳士か」
 男は悠然と
 「喫煙は、紳士の嗜みだよ」




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*1:三原順先生のマンガにインスパイヤされました、と書いておく