博士と林檎の木

http://www.waseda-garden.net/oonishi/2007/05/533.html
 過去、日本の基礎は農業でした。農地が人口を支えていました。耕地が人口を支えられないとなると、政府は海外移住を勧めました。田圃どころか、畑にもならないような荒地に置き去りです。速い話、人間を捨てました。
 さて、今の日本は、結構工業国です。ただ、既存の分野は粗方開拓され、雇用を支えられません。日本どころか、世界で一ケタの自動車メーカの、一握りのデザイナーが図面を引き、あとは期間工が組み立てるだけです。そこで考え付くことは同じこと。未開地を耕すのです。大学の研究室で、開拓の力を訓練し、フロンティアで豊かになってもらおう、と。
 と、意気揚々大学をでて入った研究室は、せいぜい一ヘクタールの零細農家。教授、助教授、講師助手と、4人で食べればカツカツです。教授の言うまま、鍬を振り上げ、畑を耕し、種を撒いて、収穫を待ちます。ロープをかけ、みんなで力を合わせて、木の根っこを引き抜き、丸太で岩を転がします。で、3年も経つと、新しい畑に芽が出てきます。
 その頃になると気づくのです。いくら頑張っても、一人では、ボリビアの荒れた土地に水を引いて、畑をつくり、種を植え、収穫し、市場に運ぶことはできません。じゃあ、大農家に雇ってもらおうか。大農家は、もう、十分に耕地を持っているし、開拓に意欲を伸ばしているところでは、ブルドーザー、パワーショベル、ダイナマイト、そういうのを駆使して開拓しています。鍬の手入れ、縄の結い方、なんて出る幕がありません。
 3年、4年と月日は流れ、撒いた種は立派な木になり、実が生りました。
 「シャリ」
 大資本が開発し、化学肥料を投入し育てた品種ほど、甘くはありませんでした。