異世界の魔術師

異世界の田舎町。町はずれの庵に魔術師が住んでいた。彼の制作した魔道具はなんとも生きがいい。それを見た異世界の転生者は、
「すばらしい魔道具だね。どれくらいの時間、制作をしていたの」 と尋ねた。
すると魔術師は
「そんなに長い時間じゃないよ」
と答えた。転生者が
「もっと魔術を追求していたら、もっと優れた魔道具がつくれたんだろうね。おしいなあ」
と言うと、魔術師は、自分と自分の家族が食べるにはこれで十分だと言った。
「それじゃあ、あまった時間でいったい何をするの」
と転生者が聞くと、魔術師は、
「日が高くなるまでゆっくり寝て、それから魔道具を作ったり修理をする。戻ってきたら子どもと遊んで、女房とシエスタして。 夜になったら友達と一杯やって、楽器を弾いて、歌をうたって…ああ、これでもう一日終わりだね」

すると転生者はまじめな顔で魔術師に向かってこう言った。
異世界でコンピューターを開発した人間として、きみにアドバイスしよう。いいかい、きみは毎日、もっと長い時間、研究をするべきだ。 それで鉄や銅を作る。銅をつくったら発電機をつくる。そうするとモーターが動かせ工作機械も使える。その工作機械でさらなる開発をしていくんだ。やがてコンピューターができるまでね。そうしたら魔道具を売るのはやめだ。自前の工場を建てて、そこで量産させる。その頃にはきみがつくったコンピューターはこのちっぽけな村を出て王都に広がり、他国へと進出していくだろう。きみはコンピューターと通信網を世界に広げるんだ」

魔術師は尋ねた。
「そうなるまでにどれくらいかかるのかね」
「20年、いやおそらく25年でそこまでいくね」
「それからどうなるの」
「それから?そのときは本当にすごいことになるよ」
と転生者はにんまりと笑い、
「今度は世界に広がった通信網を相手に、きみは掌に収まる通信端末を作るのさ」
「それで?」
「そうしたら引退して、海岸近くの小さな村に住んで、日が高くなるまでゆっくり寝て、 日中は釣りゲームをしたり、犬動画を見たり、シエスタして過ごす異性をマッチングアプリで探したり、夜になったら一杯やって、楽器を弾いたり、歌をうたった動画を投稿していいね!を集めて過ごすんだ。 どうだい。すばらしいだろう?




メキシコの漁師と旅行者の小話 改変