"使える医療機器は欧米の半分 薬だけではないもう一つの時間差「デバイス・ラグ」"

2010.4.3 01:01

 海外で使われている医薬品が、日本で使えない「ドラッグ・ラグ」の解消に向けた動きが進む中、日本の医療現場は「デバイス(医療機器)・ラグ」というもう一つのラグ(時間差)を抱えている。海外で使われている医療機器も、国内で承認されるまでに時間がかかるからだ。欧米で使われている医療機器の半分が日本では導入されていない。このため欧米では当たり前の治療が、日本人には施されない実態がある。

 厚生労働省によると、日本は米国に比べ、医療機器が承認されるまでの期間が平均1年7カ月(平成17年度)も遅い。

 デバイス・ラグが原因で欧米に大きく後れを取ったのが、腹部大動脈瘤(りゆう)の治療だ。血管の一部が動脈硬化によりふくれ、破裂すると、高い確率で死亡する病気で、従来は、腹部を切り開き、大動脈を人工血管に換える手術が主流だった。

 だが、欧米では約10年前から、足の付け根の動脈からステントグラフト(バネ状の金属を取り付けた人工血管)を挿入する治療法が普及している。開腹手術に比べ、患者への負担が軽減されるためだ。このステントグラフトが欧州で承認されたのは9(1997)年。米国も2年後に追随したが、日本で承認されたのは18年になってからだ。

http://sankei.jp.msn.com/life/body/100403/bdy1004030101000-n1.htm

厚労省も、ただ手をこまねいているわけではない。21年度から5カ年計画で、審査を担当する人員を48人から104人に増強、承認期間も米国並みに短縮する方針だ。ただ、日本の審査基準は欧州に比べて厳しい。海外で安全性が確認されても、人体へのリスクが大きい機器では治験が求められ、メーカー側にとって負担となっている。

 「市場規模が小さいこともラグの要因」とする指摘もある。世界の医療機器市場(17年度)で米国は42%、欧州も34%を占めるが、日本はわずか10%。

 米国も厳しい審査基準を設けているが、市場のスケールメリットあり、メーカーの市場参入は活発だ。

 在日米国商工会議所が20年、欧米のメーカー43社を対象に実施した調査によると、日本で使える欧米製医療機器の製品数を1とした場合、欧州は2、米国は2・1。日本で使える製品数は欧米の半分に過ぎない。

米国医療機器・IVD工業会のケイミン・ワング顧問は「ラグ解消には、より合理的な承認システムが必要だ」と指摘する。

 

"FDA(米食品医薬品局)との比較、そして提言"

FDAというアメリカの新薬審査体制と、日本のそれとの相違の第一点は、組織の 充実ぶりだ。日本の中央薬時審議会(薬時審)委員は約五百人いるが、全員が 大学教授、国立病院長などの本職を抱えたアルバイトで、事務局で専従している 厚生省審査課員は45人しかいない。
これに対し、日本と医薬品生産額、新薬成分承認数がほぼ互角の米国では、FDA 新薬評価部門の専従スタッフは1400人もいる。毒性学者、統計学者、弁護士、 医師など専門家がおり、事務職員も臨床試験査察官、監視官、安全担当官など 専門職で、新薬の安全性・有効性について高度な分析、監視能力を持つ。

予算も円換算で196億円と、厚生省の6.4億円をはるかにしのぐ。

http://web.sfc.keio.ac.jp/~bobby/Kiseikanwa/node115.html

二つ目は、治験中の助言体制が充実しているかどうかだ。
FDAの助言体制は「IND(治験薬)審査」と呼ばれ、1963年から実施されて いる。承認申請までの治験中に、製薬会社は3回チェックを受ける必要がある。
まず治験届の際、提出された動物実験などのデータを基に安全性などを調べ、 問題があれば製薬会社に届を修正させる。2回目は、健康な人対象にし安全性 などを調べる「第一相試験」と、同意を得た少数の患者を対象にする「第二相試験」 を終了した段階。3回目は多数の患者で既存薬と比較する「第三相試験」終了時に、 治験計画書や治験成績のデータなどについて相談し、助言を受けるよう製薬会社に 義務付けている。安全性に疑問があれば、FDAが治験中止を命じることもある。
ソリブジン薬禍では、治験中の87年12月、フルオロウラシル(FU)系抗がん剤 とソリブジンを併用投与された女性患者が死亡。患者の臨床データと、両剤を 併用投与したラットすべてが死亡した89年の動物実験がともに新薬承認申請資料 として厚生省、薬事審に提出されていた。
「治験中の死者は当時、死因不明とされた。日本商事から二つを結び付ける説明 もなかった。」と同省担当者は釈明する。だが、審査段階で死に至る危険性を 見抜くことが出来なかったことが、発売後の死者続出につながった。
「米国並の厳しい新薬審査体制があれば、ソリブジンのような薬禍は防げたはず」。 治験(臨床試験)中を含め16人の死者を出した日本商事のソリブジン薬禍を きっかけに、有識者からこんな声があがっている、という。FDAは日本の30倍の 審査スタッフと予算を持ち、審査で申請データのねつ造を見抜くなど、世界で最も 厳格といわれる。FDAの経験とノウハウを、日本の審査体制改革にいかすべきでは ないだろうか。