"製薬会社の研究所閉鎖は手法の革命的変化のせい"

2007年の記事。

 製薬会社として最大のファイザーが、日本での研究所を閉鎖することが話題になっている。

http://aquarian.cocolog-nifty.com/masaqua/2007/01/post_9a75.html

薬品開発そのもののスタイルが変わってきたのが原因のようだ。新薬開発手法は、古いやり方から、新しいものへと革命的に変化しつつあるらしい。

 病気は体内のタンパク質が関係して起きる。そのタンパク質にとりついて、その原因を直すのが薬だが、それはちょうど鍵穴と鍵の関係にたとえられる。タンパク質には独特の形の鍵穴がある。その鍵穴にぴたりはまりこみ、薬効を発揮する鍵を見つけるのが、新薬開発だそうだ。古いやり方は、馬鹿力である。候補になりそうな化学物質を合成する。これが鍵の候補である。それを片端から鍵穴に試してみて、びたり合うかどうかを試す。これがスクリーニングである。嵌るか嵌らないか。莫大な数を試すらしい。当たれば、新薬として大もうけになる。しかし何千何万という鍵を鍵束から選んでは、鍵が開くかどうかを試すのだから、膨大な労力を必要とする。製薬会社の研究所でやってきたことの大半はそういう仕事だったらしい。

 ところが、その仕事のスタイルが変わってきた。タンパク質の鍵穴の形状を見ることができるようになった。X線結晶構造解析という手法である。放射光という強力なX線を使う。これでかつては何年もかけてやっと見えていた鍵穴の形が、数日程度(場合によっては一日)の実験でできるようになってきたそうだ。何年もかけるようでは実用にならない。しかし、それが数日の仕事になれば、病気に関係するタンパク質の構造を調べ、鍵穴の姿を知り、それに当てはまる薬を作り出せる。それがやっと実用になってきた。私が現役の最後に従事していた仕事は、この放射光施設(SPring-8)を建設し、広く利用に供することだった。

 タンパク質構造解析により鍵穴の形が分かれば、その穴に当てはまり、薬効を発揮する薬の形と機能はどうあるべきかが分かる。そのような形・機能を持つ化合物を設計すればいい。これが分子設計という方法で、そのためにコンピューターを使う。コンピューター上で候補物質の分子を作り、それが相手のタンパク質の鍵穴に当てはまるかどうかシミュレーション(ドッキング・シミュレーションと呼ぶ)ができるようになった。

昔は、病気の原因となる「鍵穴」に、新薬の候補となる「鍵束」を、一つ一つ適合するかどうか莫大な手間をかけて試していたが、SPring-8のような放射光施設で、「鍵穴」を解析し、コンピューター上で作成した「鍵」が「鍵穴」に合うかどうかシミュレーションできるようになったと。そうすると、片っ端から候補を動物実験する必要がなくなり、絞られた候補だけに集中できる、という話。薬学の知識もないけど、ありそうな話ではある。
これを考えると、SPring-8スパコンが、仕分けられたのも理解できるなw