杵の旅


 ある町に、杵*1とLサイズの臼*2が運ばれた。さて、その町の北には、働き者の町があった。
 北の町では、老若男女、みな一生懸命働いていた。年寄りは縄を結い、子供も荷を運び、もちろん成人は一生懸命働いていた。その町では、働かざるもの喰うべからず、の原則があった。月に一度、ロボットが巡回し、働かない人間を追放されることになっていた。みなよく食べて、一生懸命働いた。書物ばかり読んで怠けている人など一人もいない。
 そんなある日。仕事中に、一人の男が苦しみだした。それを契機に、次々に人が倒れ始めた。食べ物に毒が入っていたのだ。規則正しく、皆同じ朝食を食べた北の町の住人たちは、誰一人働けなくなってしまった。ロボットがやってきて、住人たちを壁の外へ放り出した。


 杵が運ばれてきた町は、普通の町だった。働けない人、怠け者を白眼視する人もいたし、パンもサーカスも配給されるわけではないが、まあ、パン半分くらいは配給されていた。隣町と、同じ粉を輸入していたため、やはり中毒患者は多発した。助かったのは、不規則な生活のためパンを食べなかった人、古い粉の配給パンを食べていた人、だった。彼らは、普段働けなかったり、怠けていたりしたのだが、ここで急にやる気をだし…たりしたかどうかは定かではないが、普通に中毒で動けない人を助けた。ちょっと水を汲んでくるだけでも、大違い。普段、哲学書ばかり読んでいた人が、治療法を知っていたとか、そういう話もあったりなかったり。まあいろいろあって、町はもとにもどった。貧民、働けない人、怠け者を白眼視する人は、増えたり減ったりしているが、配給制度は続いている。



 働き者の町の、南にも町があった。ここは、なにもしなくても配給が受けられる。いや、倉庫へいって、好きなだけ食事ができるという。それどころか、他人の食事を邪魔すると、広場の石像が雷を発して、邪魔する人を止めるという。「お前は、いかなる資格をもって、他人の行動に留保を唱えるのか」と。普通の町の人は、食中毒から立ち直ると、南の町へ使者を出した。食中毒で苦しんでいたらたいへんだ。解毒剤を持っていこう。さて、町についてみると、閑散とした広場には、食中毒で苦しんでいる人はいない。不思議に思った使者が、通りがかった人に尋ねた。
 「この町では、輸入した粉による中毒はおきなかったのですか」
 「ええ、うちらは、それは輸入しませんでしたので」
 「それは賢明でしたな。どうしてわかったのですか?」
 「いや、お恥ずかしいながら、なにしろ、輸入するお金が無くなってしまったもので」
 「それは不幸中の幸いとでもいいましょうか。しかし、どうやってみな暮らしているのですか?」
 「それは、こうやっていたのですよ」
 町の住人は、隠し持っていたナイフとフォークを手に、使者に襲い掛かった。

*1:餅をつくために主として用いられる。映画を意味しない

*2:餅をつくために主として用いられる。モビルアーマーではない